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カネゴンのいる風景

『怪獣と美術』展には「カネゴン」と題された3枚の絵が展示されている。カネゴンは昭和41年に放送された「ウルトラQ」の第15話『カネゴンの繭』に登場した怪獣で、以後数十年の時を経た現代では独立したキャラとして知られる人気モノだ。もともとはコインに執着する少年が怪獣に変身してしまうという話だったと思う。さすがに初回放映時には観ていないが、後年の再放送は観たような気がする。放送はみていなくても、怪獣図鑑やソフビ人形ではアイドル級だったから、しっかり記憶に刻まれている。
 3枚のカネゴンの絵は、いづれもカネゴンの生みの親である成田亨の筆によるもので、1点は50.5cm四方のボードに、残りの2点はともに30cm×50cmの紙に、アクリル絵の具で描かれている。
 正方形の絵は、抜けるような夏の青空に、ぽっかり浮かんだ落花生型の繭を破って、カネゴンが立ち上がり遠くを眺めているところを描いたもので、青空と白い雲のたもとの画面下方に瓦葺きの民家が連なる住宅地が描かれ、遠くに小さくビルの影がみえる。制作年度は1993年だが、絵の中の風景は番組が制作された昭和30、40年代を思わせる。この絵を「カネゴンの繭」と私はこっそり命名した。
 横位置の絵の1枚では、カネゴンは夕焼け空の広がる空き地に置かれた土管の上に座り、コインをもてあそんでいる。空き地の向こうにみえるのは、背の低い家々。窓にともる灯りが、夕暮れを感じさせる。この絵の制作年度は2000年、しかし、ここで描かれているのも昭和30、40年代の光景である。私はこの絵を「夕暮れのカネゴン」と呼んでいる。
 最後の一枚は、画面の大部分が透明感のある夏の空で占められている。画面の下部には川が描かれ、向こう岸には他2作と同じ様な昭和の家並みが連なっている。その川をはさんだ手前の土手の上、画面右下の方に、コインをながめて考え事でもしているかのように歩いているカネゴンの姿が描かれている。制作年度は2000年。この絵を私は「散歩するカネゴン」と呼ぶことにした。

 「カネゴンの繭」はマグリッドを彷彿とさせる。爽やかな夏空の下の静かな住宅地、そののどかな光景の中にこつ然と姿を表した宙に浮かぶ繭とカネゴン、丹念に描かれた細部から立ち上るリアリティが、シュールさを際立たせている。これは、おそらくカネゴンを知らない人が観ても、シュールリアリズム的な絵画として心に残るのではないだろうか。平穏さの中に突如として姿を表す異様なもの、それがこの絵のコンセプトのように思える。だとしたら、それはまさしく「ウルトラQ」のコンセプトと同じだ。成田亨はそれをこの絵の中に表現することに成功したといえる。
 
「夕暮れのカネゴン」は、 「カネゴンの繭」のもつ一般的な芸術作品としての魅力と異なるところで、私の心に焼き付いた。この絵を観た時、自分の小さな頃のことを思い出した。私は小学校の低学年までを東京の北区ですごした。そのころの田端や西日暮里のあたりには、絵に描かれているような広場があちこちにあった。そしてそこには土管もあった。土管の中に潜り込んだり、その上に登って遊んだことを、「夕暮れのカネゴン」はスコーン!と私に思い出させた。土管の上に座っているカネゴンは私なのだ。

 「散歩するカネゴン」この絵の主役は、もしかしたら空、あるいは昭和30、40年代という時代の空気なのかもしれない。東京の空がまだ広かった時代、カネゴンがいた時代、そんなにさだかではない記憶の中の東京は、カネゴンという存在によって補強され、リアルな思い出のようなフリをして私の中浮かびあがるのだ。


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『怪獣と美術』展 三鷹市美術ギャラリー

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