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川村美術館蔵 酒井抱一《隅田川焼窯場図》

 酒井抱一といえば、まず《夏秋草図屏風》や《八橋図屏風》など尾形光琳に関わるもの、そして、プライス・コレクションの《十二ヶ月花鳥図》が思い浮かぶ。いずれも、隅々にまで神経のゆきとどいた構図のもとに、制御された繊細な線と艶やかな色によって描かれた作品たちだ。私は、その表現に魅せられた一人である。
 また、抱一には、そうした繊細さとは対局の豪快な筆致の作品もある。全面銀地の大画面に墨で波を描いた《波図屏風》である。この作品も、私の心を捉えて放さない。
 そこにまたひとつ、抱一の異なる面をみせてくれた作品にあうことができた。
 《隅田川焼窯場図屏風》である。
 六曲一双の大画面の左隻には隅田川とその向こうに霞む富士山が、右隻には川ベリの焼窯場が紙本の上に墨で描かれている。
 モチーフの形は洗練されているのだけど、筆運びは軽く伸びやか。この絵からは、着色画に見られる自律した完璧志向は感じられない。
 最低限の要素を、あっさりと描いていることで、余白の中に風のそよぎや空気のゆらぎが見えて来る。
 そうした空気感は屏風というメディアによってさらに増幅され、見るものの動きとともに、絵の中の風景は微妙にその姿を変えていく。
 ただ、ずっとぼんやり眺めていたいと思わせる、そして、眺めている間じゅう、絵の中の眺めもひとつにとどまっていないだろうと思わせる、そんな作品だ。
 形に対する洗練された感覚を、肩の力を抜いて表現することができるセンスと余裕は、評伝から浮かぶ粋人としての抱一のイメージに違わない。
 着色画から感じられる完璧主義も、《波図屏風》の大胆さも、抱一であり、愛してやまない。でも、今の私は、粋人抱一の絵をスゴイと思う。
 この絵にあえて良かった。

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