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『イギリスの美しい本』展(感想)

Part1
I. 伝統エリア
 「美しい」本を期待していると、いきなり出鼻をくじかれる。鎮座しているのは、汚れて古ぼけた本。15世紀末にカクストンによって出版された本とのこと。カクストンという名前は、モリス関連の書籍の中でしばしば見た覚えがあるのだけど、何をした人かいまいち不明だった私。図録によるとカクストン氏は、かのグーテンベルグから印刷技術を学んでイギリスにもたらした人らしい。そのカクストン本から展示はスタート。ようするに、イギリスの本(出版物)の歴史の流れを見せようという企画らしい(よく見れば図録にもそう書いてあった(^^;;)。
 まあ、どんなところから始まったかという知的な部分で見せるエリアとして考えれば、妥当なのかもしれない。でも、シミだらけの本をドッカーンと開いて見せるだけ。っていうのは、あんまり芸がないような気がする。こういう時こそ、パネルでなぜその本がここに展示されているのかということを説明して欲しいのだけどなあ。(入り口に置かれていたプリントは、作品解説のみ)
 図録の解説にあった、モリスへの影響なんかを作品の側で説明しておいてくれれば、次のエリアで展示されているモリスの本と比べたりとか、見る「ツボ」が違ったのに。
 まあ、小言はさておき、『印刷の要諦』という本の口絵に当時の印刷機の図解が乗っていたのはちょっと面白かった。
 絵という観点でみるのであれば、ビューイックの挿絵版画やブレイクの銅版画が出ていた。ビューイックの挿絵の黒々としたインクと紙の白地のコントラストの鮮やかさは、現物ならでは。
 
II.繁栄エリア
 ラファル前派ファン必見(^^;;はアルフレッド・テニスンの『詩集』でしょう。私が見た時はファンなら毎度おなじみ(?)の「シャロットの乙女」の頁が開かれておりました。書籍中ではしばしばお目にかかった絵だけれど、実際に本の形でみるのは初めて。感慨深いものがあります。願わくば、全頁見たいです(祈りのポーズ)。
 このコーナーはカラーものがいくつも展示されていたのだけど、中でも、ウォルタークレインのカラーイラストは、山岸涼子や萩尾望都の絵を見て育った私のまさにツボ。そうそう、70〜80年代にはやっていたケート・グリーナウェイも何点か出てました。『窓の下で』の現物を見た時は綺麗さに感動したのだけど、図録で見直してみると、微妙に諸星大二郎の『グリム童話』に似ている(諸星が似ているのだけど)ことに気づいてしまった。う〜ん。
 そして、ビアズリーの(文章は別人だけど、挿絵の量の多さを考えるともうこれは《ビアズリー》の作品といっていいのではないかと思う)『アーサー王の死』。
 全2巻、ということになっているけど、実際の刊行は毎月の分冊。ようするに『月刊・ビアズリーのアーサー王の死』ってことでしょうか。その分冊も展示されおりました。
 薄汚れて汚くなってたけど、毎月それを買って読んでる様子が想像できる、というか、うらやましい。このビアズリーの『アーサー王の死』は最近、筑摩書房で出版されだしたのだけど、オリジナルとは版型が違うことに、展示を見て気がつきました。ちなみに、筑摩版は文字組があまりに酷いので買うのやめた覚えがあります。オリジナルの文字組の美しさを見ると出版社の見識のなさに泣けてきます。(怒りでどんどん脱線してしまいそう!!)
 ビアズリーの作品としては初期のもので、『サロメ』のような洗練や妖しさはないけれど、私はこの『アーサー王の死』が結構好きです。ケルムスコット・プレス的な雰囲気をもちつつ、単なる中世趣味に終わってないところが素敵。囲み模様とかで重くなりがちな画面に、黒い面と白い面を大きく使うことで垢抜けた感じになってるんだと思う。
 そして、このコーナーの閉めくくりは、リケッツ様の原画装丁による『境を越えて』。でも、なぜが図録と記憶が噛み合ない(^^;;なぜなんだ。

III.展開エリア
 モリスのケルムスコットプレス→リケッツのヴェイル・プレス→ピサロのエラニー・プレスからエリック・ギルのゴールデン・コッカレル・プレスまでの流れの展示。
 流れで見ていくと、ケルムスコット・プレスっていうか、モリスのエディトリアル・デザインのくどさを再認識させられる。たとえば、『チョーサー著作集』ひと見開きだけなら、「すごい!」という感動で終わるのだろうけど、何点も見ているうちに疲れてくる。これを、一冊数百頁読んだら・・と思うと頭が痛くなってしまう。そういえば、モリスは「頁の黒と白の割合を50%にする」といっていたのを何かで読んだ気がした。同じ白黒半々なら私は『アーサー王の死』の方がいいです。
 これが、ヴェイル・プレスになると余白が意識されてくるし、その傾向は時代が下るにともなって顕著になっていく。その流れの延長に現代があるってことでしょうか。
 最近リケッツのファンになった私としては、リケッツ(画)ワイルド(作)『スフィンクス』が見たかったです。
 とはいえ、ケルムスコット・プレスの本をまとめて見ることができただけでなく、ほかのプライベート・プレスについても現物をみることができて良かったです。実際のサイズで見るのはやはり違いますね。
 しかしながら、本の展示の場合、全頁見ることができないのが残念です。

図録
価格:2300円(税込み)
上製本(箱ナシ)168P

『ビアズリーと世紀末』の著者である河村錠一郎氏が16Pにわたる解説文を寄稿しています。
黎明期からモリスのケルムスコットプレスそしてリケッツのヴェイルプレスへてプライベートプレスの隆盛まで、コンパクトにわかりやすく解説してくれているので、プライベート・プレスの入門情報として重宝しそうです。

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