「Space for your future-アートとデザインの遺伝子を組み替える」
会期:07年10月27日(土)〜08年1月20日(日)
会場:東京都現代美術館企画展示室全フロア
《展示された作品のアーティスト》
nendo/エリザベッタ・ディマッジョ/マイケル・リン/R&Sie(n)+D/COSMIC WONDER/AMID*/SANNA/エルネスト・ネト/MONGOOSE STUDIO/コンテニード・ネト/嶺脇美貴子/足立喜一朗/フセイン・チャラヤン/ショーン・グラッドウェル/トビアス・レーベルガー/タナカノリユキ/アシューム・ヴィヴィッド・アストロ・フォーカス/カーステン・ニコライ/ダイキン エア・デザイン・プロジェクト/植原亮輔と渡邉良重/東泉一郎/グラッツィア・トデリ/パトリック・トゥットフォーコ/オラファー・エリアソン/ルカ・トレヴィザーニ/BLESS/カンパナブラザーズ/デマーカスファン/バーバラ・フィッセル/蜷川実花/石上純也/アピチャッポン・ウィーラセタン
【2F】
展示はチケットチェックの手前の2Fエントランス・ホールからはじまります。
最初の作品はnendo作《kazadokei》。
全長は15メートル。白いチップをしきつめた細長い土台の上に、細く白い棒が間隔をあけて一列に立ち並び、それぞれの棒の先端に取り付けられた2本の針がゆっくりと動いています。
作品紹介によると、全体が秒針で「《kazadokei》は何時何分という時間の座標を示す〈時計〉ではなく、時の流れを体感させるセンサー」ということですが、エントランス・ホールというザワついた状況に作品そのものの存在感が薄くなってしまっていました。
【3F】
●エリザベッタ・ディマッジョ《無題》
チケットチェック後はまずは3階へ移動。エスカレータが登り切ると、正面の天井から何枚もの大きな白い紙が吊られているのが目に入ります。近寄ると紙には細かいカットワークが施されているのが分かります。作者はエリザベッタ・ディマッジョ。無題と題されたこの作品は、「水性微生物をモチーフとしている」ということですが、市街地図がいつのまにか花の形にメタモルフォーズしていくようにも見えます。ゆらゆら揺れる紙の下を行き来して、表から、裏から作品を見るというのも面白い体験でした。
●マイケル・リン《無題》
白い紙の作品の次は白い部屋。白い部屋の奥の一面にのみ、色鮮やかな花模様が描かれた大きなカンバスがかけられています。よく見ると、白いと思っていた壁には全面に鉛筆で花模様が描かれて、その模様はカンバスの中の花模様につながっています。作者はマイケル・リン。この作品も無題です。
●R&Sie(n)+D《聞いた話》
ふたたびディマッジョの作品を通って、今度はもう一つの部屋へ。ディマッジョの作品が平面のカットワークだとしたら、今度の作品は空間のカットワークでしょうか。
薄暗い部屋の中央には、ガラスケースに納められた白いオブジェがひとつ。白い樹脂のようなものが、複雑に絡み合い、融合しあって、多孔質でしかも表面のなめらかな不思議なフォルムをもつ物体を作り上げています。《聞いた話》と題されたこの作品の作者はR&Sie(n)+D。
「自己増殖する不定形な都市のイメージを、コンピュータの3Dデータがそのまま立体として塑形されるFDMという技術によって立体モデルとして視覚化したもの」だそう。
イマジネーションだけでなく、その実体化に用いられるテクノロジーも現代アートの魅力のひとつ。そういう視点から見ても面白い作品です。
●COSMIC WONDER《magic village》、前田征紀の《Light Lodge》
薄暗い部屋を抜けると、今度は薄明るい展示室。床に並べられた様々な布の上に枝や布で作られたテントが張られ、テントの上には天井から布が下げられています。COSMIC WONDERによる《magic village》という作品です。
《magic village》と同じエリアには、前田征紀の《Light Lodge》と題された作品も展示されています。《Light Lodge》は4畳半ほどの箱形ブースで、円形の窓から中を覗くとモノリスのような物体と鏡のようなものが見えます。靴を脱いで中に入ることもできますが、中に入ってしまうと、窓からのぞいていた時に感じたオモシロ味が薄れてしまうのが不思議です。
●AMID*、SANNA《フラワーハウス》、エルネスト・ネト《フィトヒューマノイド》
次は、このフロア最後の部屋です。
大きな部屋の中に、AMID*アーキテクチャー(cero9)による建築のプレゼンテーション、SANNAの《フラワーハウス》、エルネスト・ネトの《フィトヒューマノイド》が展示されています。
AMIDのプレゼンテーションは、映像作品やオブジェで表現された建築モデルには、独立した作品としての説得力あったものの、それ以外のボード展示は、学生の課題がかっこよくディスプレイされただけのようにも見えます。
SANNAの《フラワーハウス》も、いまひとつチャチな印象がつきまといます。
エルネスト・ネトの《フィトヒューマノイド》は、実際に座ったり、穴のあいた所に頭を入れて着用して寝転がることのできる「一人一人が体感できるソフトスカルプチャー」。触感からはソフトビーズを詰めた生地で出来ているように思えます。アイデアも面白いし、作品も楽しい。ただ一つ残念なのが、よく触れられる部分が垢染みになっていたこと。その汚れのせいで、着用するのにはかなり勇気がいりました。実際、その場にいた他の女性客は、試したいけど汚れていないのがないならやめる、といった具合でした。作者は汚れによる反応も作品の一部として想定していたのかどうか、聞いてみたいところです。
●MONGOOSE STUDIO《fuwapica future》、コンテニード・ネト《Project:ContenidoNeco》
フロアを一巡したら、上がってきたエスカレーターで、下の階へ移動です。
その前に、エスカレータ脇に展示されているMONGOOSE STUDIOの《fuwapica future》をチェック。《fuwapica future》は、一見白く半透明な四角いスツールですが、人が座るとピンクやブルーなどに色が変わります。座り方によって色や明るさが変わるのは空気圧センサのおかげだそう。
このフロアの最後の作品はコンテニード・ネトの《Project:ContenidoNeco》。ペットボトルを特別なカッターでリボン状に切り、できたリボンを使ってバッグなどを作るというプロジェクトの映像。ちなみに、コンテニード・ネトの国アルゼンチンでは、ペットボトルは日本のようにリサイクルされていません。コンテニード・ネトのアイデアそのものがアートということでしょうか。
【2F】
●嶺脇美貴子《mineorities》
エスカレーターでひとつ階を降りると、踊り場のようなスペースに展示されているのが、嶺脇美貴子の《mineorities》。白いテーブル状にしつらえたボードの上に、アクセサリーのようなものが並べられている。「身近な素材を丁寧に輪切りした上で、それらをつなぎ会わせ、ネックレスとして整えた作品」らしいです。面白いとは思いますが、それどまりでした。
【1F】
●足立喜一朗《e.e.no.24》
エスカレーターでさらに降りて1階に。暗い部屋の中に、ミラーボールのぶら下がった電話ボックスがひとつ。よく見るとヘッドホンががあるのがわかります。電話ボックスの傍らの壁面で上映されている映像をみると、どうやら一人用ディスコらしい。作者は足立喜一朗。《e.e.no.24》という作品です。このディスコ、外から中は丸見えだけど、マジックミラーなので中から外は一切見えない、という仕掛けがミソらしいです。
●フセイン・チャラヤン《LEDドレス》
次も暗い部屋、その中でトルソーに装着されたドレスがぼんやりとした光を放っています。フセイン・チャラヤンの《LEDドレス》。展示ではトルソーをつかっているのであまり驚きはありませんが、同時に上映されているメイキング映像や、実際のコレクションでモデルが着用してランウェイを歩いている姿を見るとさすがに感心します。
次の部屋は、ショーン・グラッドウェル。壁面ひとつを丸々スクリーンにした作品や、カメラを装着して自転車で走った時の映像を、床に映したり、PSPの画面で見せたりする作品。床面とPSPの作品は面白かったのですが、壁面のものは遮光がよくなくて、映像のクオリティがイマイチに。せっかくのインパクトが半減して残念でした。
●トビアス・レーベルガー《母型81%》、タナカノリユキ《100ERIKAS》、avaf《anatato vuivui attoteki fukusayo》
次の大部屋は、トビアス・レーベルガーの《母型81%》とタナカノリユキの《100ERIKAS》とアシューム・ヴィヴィッド・アストロ・フォーカス(avaf)の《anatato vuivui attoteki fukusayo》の展示。
トビアス・レーベルガーの《母型81%》は、カラフルでポップな素材を使った実物の81%サイズのガレージ。作者から認証状を購入すれば、見よう見まねで同じものをつくる権利を得ることができます。
タナカノリユキの《100ERIKAS》はタイトルどおり100種類の沢尻エリカのポートレート。同じアングルで、メークだけを変えて100種類のキャラを作っています。アイドルの写真集と何がちがうの?といってしまえばそれまでのような気も。
アシューム・ヴィヴィッド・アストロ・フォーカス(avaf)の《anatato vuivui attoteki fukusayo》。「ゴミやとるにたらないものをリミックスし、楽園に変容させるavafの錬金術」とガイドマップにはかいてありますが、チケットや物販のファイルに使用した他の作品の写真と比較すると、今回の作品は錬成に失敗してるような気がします。
●カーステン・ニコライ《フェーズ》
吹き抜けを覗きながら1階最後の部屋に。
カーステン・ニコライの《フェーズ》。霧と光を使ったインスタレーションらしいのですが、遮光とかがいまひとつ中途半端で印象にのこりませんでした。
【B1F】
マップB1Fに掲載されている作品には、行き方が分からなくて到達できませんでした。
(ダイキン エア・デザイン・プロジェクトの《air relation》と植原亮輔と渡邉良重の《時間の標本》)
【B2F】
●東泉一郎《MIRAI》、グラッツィア・トデリ《バベル・レッド》
このフロア最初の展示は、入り口正面の壁面全体を使って上映される東泉一郎のアニメ《MIRAI》。白地に黒い線で表現されたアニメはそれなりに面白いのだけれど、あまり印象にのこらなかったのはぜでしょう。
入り口左手に小さなブースを作って上映されていたのがグラッツィア・トデリの映像作品《バベル・レッド》。二つに折り曲げられた画面の左右それぞれに、微妙に異なる映像が映し出され、それが呼応するように変化していく。入り口なので、なんとなく落ち着かず、早々に移動。
●パトリック・トゥットフォーコ《長距離走者》
パトリック・トゥットフォーコの《長距離走者》では、壁に立てかけで並べられた3つの円形のスクリーンそれぞれに、異なる映像が映し出されます。映像は、作者が中国やインドを旅しながら撮影したもの。横一列に並んだ3つの円に、最近オープンした鉄道博物館のロゴを思い出し、長距離走者というよりは、長距離列車のイメージに。入り口の隣のせいか、遮光が甘いため映像があまり映えなかったの残念です。
●オラファー・エリアソン《四連のサンクッカー・ランプ》、ルカ・トレヴィザーニ《プラチナ・イリジウム》
次のコーナーはオラファー・エリアソンの《四連のサンクッカー・ランプ》。サンクッカーは、太陽光を集めてその熱で調理をする機器。それに光源を組み合せた作品。ランプの光がサンクッカーの銀色のパラボラに反射してまばゆいばかり。
その隣の小部屋は、ルカ・トレヴィザーニの映像作品《プラチナ・イリジウム》を上映。林立する蛍光灯のような光の間を歩いていく男の姿が印象的でしたが、中途半端に人が詰まっていたのとどの程度時間がかかるかも分からなかったので、ちょっとみただけで次へ。
●BLESSの《BLESS N°32frustverderber》、カンパナブラザーズ《ムルティダオ・チェア》、デマーカスファン《レースフェンス》《シンデレラテーブル》
次のコーナーは、BLESSの《BLESS N°32frustverderber》、カンパナブラザーズの《ムルティダオ・チェア》、デマーカスファンの《レースフェンス》と《シンデレラテーブル》。
《BLESS N°32frustverderber》はサッカーをテーマとしたヴィデオ&インスタレーション。普通の男女がボールを奪い合っている映像の傍らに、サッカーゴールが置かれ、リビングのようなセットが組まれています。「サッカーゴールの周りには家具や絵画などの高価な調度品が置かれ、シュートによってそれを壊されまいとする住人がゴールキーパーとしてソファに座っている。」という設定らしい。
ちゃんと遮光してないせいで、映像はハッキリしないし、他の作品と相部屋状態なので作品に入りこめませんでした。もっとも、コンディションが良かったら作品の印象が良くなったか、ていうと、それは疑問ですが。
《ムルティダオ・チェア》は、小さな布人形をつないで椅子のシートにしたもの。正直あまり気持ちのいいものではありません。
《レースフェンス》は、一般に単調な編み目で作られるフェンスを、レース編みのように編んだ作品。フェンスに対する既成概念を鮮やかに打ち壊し、華麗に再構築してみせてくれます。アイデアが面白いだけでなく、それを実体化させた技術にも脱帽です。
《シンデレラテーブル》は、木を有機的な形に切り出した作品。複雑な曲面はコンピューターによるものだそう。
●バーバラ・フィッセル《俳優と詐欺師》《変容の家II》
次のコーナーはバーバラ・フィッセルの作品《俳優と詐欺師》と《変容の家II》。《俳優と詐欺師》は、ムービーの画面だけが空中に浮かんでいるように見える不思議な作品。しかもその画面は両面から見ることができます。
空中に浮かんだの表と裏に、一人の俳優の異なる演技を同時に映したもの。片方の面では俳優は「俳優」を、もう片方の面では「詐欺師」を演じています。同じセット、同じ衣装で演技のみが異なる映像を、観客は画面の表と裏を行き来して見比べることができます。
画面のみが宙に浮かぶという驚きと、一人の人物の本音と建前を同時にみているような錯覚は、展示でこそ味わえる面白さといえるかもしれません。
《変容の家II》も映像作品ですが、黒バックのモノクロ作品のため、壁面の黒に映像の背景がとけ込んで、舞台となる箱型の家がまるで宙にういているかのように見えます。
場面は、見る側の意表をつく展開で、次々に変化していき、最終的には振り出しにもどる。エンドレスで見入ってしまう、密度の濃い作品でした。
●蜷川実花《my room》
バーバラ・フィッセルの次は、蜷川実花のインスタレーション。箱型に作られたブースの内部は壁面から床にいたるまで赤を基調とした極彩色。色の正体は大きく引き延ばされた造花や金魚の写真。色の洪水の中に、さらにパネルで写真が展示されています。全身で蜷川実花の世界を感じることのできるインスタレーションです。
●石上純也《四角いふうせん》
蜷川実花のブースをでると、次はアトリウム。床面のB2階から3階まで吹き抜ける大空間いっぱいに、巨大な四角いオブジェが浮かんでいます。表面は金属的な光沢を放っているので、「金属が浮かんでいる」ような感じを狙っているのがわかります。
雑誌やテレビの画面で見た「アトリウムに浮かぶ巨大な金属の四角い塊」は、たしかに「スゴイ!!」と感じさせるものでした。実際、今回の展示に足を運んだもの、これの実物を見たかったから。
で、実物をみておもったのが・・・・。「意外とチャチい」表面を覆うアルミはシートを継いで使っていて、しかもあちこちに浮き上がってしまっている所があって、なんだかプレゼン用ダミーぽい。
しかも近くでみると、用意に構造の察しがつく。四角い形状に風船を縫ってその外面にアルミシートはってみた、という感じしかしません。事前情報で1トンという重さを聞いてるから凄いと思うだけで、それだって現代の技術力を考えたらさして驚くほどのことではないでしょう。商用の飛行船とか日々見てるわけですから。
そんな現実の中で、それでも「すごい」と思わせて、「目からウロコが落ちた」ような気分にさせてくれる「作品としての説得力」が、実際に見た「四角いふうせん」には希薄だったような気がします。
雑誌の写真やモニターの画面では、何百分の1に縮小されたため、実物の作りの甘さは見えてきません。作者の石上純也は、「四角いふうせん」そのものを「作品」として作っていたんでしょうか。私にはこれは「プレゼン用のダミー」にしか見えませんでした。
「巨大な金属が浮かぶ」違和感を「四角いふうせん」で表現するというアイデアは面白いと思います。しかし、視覚的な説得力を考えたら、シートを継ぐという体裁でよかったのか疑問です。実際にアルミシートを使わなくても、金属的な面を作り出すことは可能なんですから。それとも、1トンを浮かすというところにポイントがあるんでしょうか?それもちょっと的外れな気がします。とにかく、作品としてのツメの甘さが気になってしかたがありませんでした。
ちなみに、同じ様に吹き抜けのアトリウムを使った作品が常設の方にあったのですが、そちらの方は「作品」として密度の濃い存在感を放っていました。残念ながら、作者も作品名も分かりませんが。(展示場所でも、サイトでも確認できませんでした)
●アピチャッポン・ウィーラセタン《エメラルド》
最後の作品はアピチャッポン・ウィーラセタンの《エメラルド》という作品だったのですが、なぜか、まったく記憶にありません。混んでいて部屋に入れなかったので、あきらめたのかもしれません。
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「アートとデザインの遺伝子を組み替える」というのがコンセプトだったらしいのですが、玉石混交といった印象を否めません。それは、作品として作られた密度の高い説得力のあるものと、プレゼンテーションレベルの造作の甘いものが混在していたせいのような気がします。展示側も自分達の立てたコンセプトにばかり気持ち行っているようで、作品ひとつひとつをきちんと伝えようという配慮に欠けていたように思えます。
体験型の作品が薄汚れていたり、映像作品の遮光が十分ではなかったり。映像作品をあえてミュージアムという場で見せるのであれば、そこでしか得られないクオリティを提供してほしいものです。
企画展の後、常設に行きましたが、そちらの方が何倍も密度の濃い鑑賞ができたような気がします。あれだけのよい作品があるのであれば、「アート」とか「デザイン」という言葉にのっかった、表面的な格好良さを追った企画ものよりも、収蔵している作品の良さをきちんと伝えることを大切にした展示が見たいと思うのでありました。
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